家庭で作品を管理する場合,生活している人が快適と感じる環境が作品にも良い環境です.皆さんが24時間いることができない場所に作品を置かないことが理想です. | ||
展示のリスク | ||
温度湿度 | ||
温度と湿度は高すぎても低すぎても良くありません. 美術館などは温度20度前後,相対湿度50-60%に調整していますが,一般の家庭ではこの数値を維持することが困難です.自分をバロメーターとして,人が不快を感じない環境作りを目指してください. 季節によって冷房,暖房はもちろん除湿,加湿にも気をつけてください.また急激な温度湿度の変化は避けてください.作品のある部屋に温度湿度計を置いてときどき数値を把握しておくことも大切です. 火を使うストーブの周辺はもちろん,冷暖房機の風が当たる場所に作品を展示してはいけません. |
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beacon art studioは,環境省の気候変動キャンペーン「Fun to Share」の活動に賛同しています. | ||
beacon art studio「Fun to Share」活動もご参照ください. | ||
照明 | ||
日中を通して直射日光が当たらない場所に展示してください. 直射日光,スポットライト,近すぎるライティングは作品の退色だけでなく,作品周辺の温度を変化させ,酸化などの劣化を促進させる原因になります. |
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空気の汚れ | ||
空気中の汚れは作品に付着します.塵埃,その他の汚れの飛散にも注意してください.換気は必要ですが,排気ガスなど外の空気の汚れにも注意してください.空気清浄機の使用も効果があります.作品がある部屋での喫煙は厳禁です. カビ対策として温度と湿度の管理は重要ですが,カビは空気の動きがないところで繁殖します.防カビのためにも適度な通気を心がけてください. |
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火気,薬品 | ||
暖房ストーブ,台所のコンロなど,火を使用している場所から作品を遠ざけましょう.洗剤,殺虫剤,消臭剤などが作品に付着しないよう,とくにスプレーを作品の近くで使用しないようにしましょう. | ||
落下,衝突 | ||
美術館では画面の中心が鑑賞者の目の高さ(150cm程度)になるように展示しますが,家庭では家具の上の空いている場所など,高い場所に飾られることが多くあります.展示場所が高くなるほど落下の際の衝撃が強くなることに注意してください. ドアの開閉による振動の影響を受ける場所,人の出入りが激しい場所での展示も避けましょう. |
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とくに避けるべき展示場所 | ||
下駄箱の上に作品を展示していませんか?玄関,トイレ,浴室脱衣室,台所などは温度湿度の変化が激しく,展示に適さない場所です. | ||
額装 | ||
吊り金具,吊り紐 | ||
額裏面の吊り金具にガタツキがないか,吊り紐に傷がないかを確認してください. 吊り金具は額裏面用,壁面用とも,額と作品を合計した重量をしっかりと支えることができるものを用意してください. 重量を測定するには,額装された作品を持って体重計に乗って重量を量り,次に作品を持たずに自分の体重を量かります.その差が額装された作品の重量です. |
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額の裏板 | ||
額装された作品を壁に紐で吊るすと作品はやや下向きに傾斜しますので,埃は作品の裏面側に溜まります.裏面の保護が大切です. 裏板にはラワン材などの合板がよく使われますが,できれば取り外すことをお勧めします.酸化しやすい素材で,板自体が酸化するだけでなく作品の酸化を促進する危険があります. 画材店で購入できる1-2mm程度の中性紙のイラストボードや水彩画のマット紙などが利用できます.密閉の必要はありません.適度な間隔に小さめの木ネジを用いて固定すると良いでしょう.接着テープは経年により接着剤が額に移るので使用しないでください. |
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保管のリスク | ||
移動のための梱包材 | ||
まず保管の前に移動の際の梱包材を取り除いてください.とくにビニール袋や気泡緩衝材(エアーパッキング)などに包んだまま作品を保管してはいけません.通気が悪く,場合によっては包みの内部で結露することもあります.埃を避ける目的なら,作品を箱に入れてその上に薄い布や紙を掛けるだけでも良いでしょう. | ||
保管方法 | ||
画面を保護するために箱を用意するとよいでしょう.保管棚などを利用すれば安全に収納できます. 酸性紙のダンボールやラワン合板の箱はビニールの包みと同様,作品の劣化を促進するため保管には適切ではありません. 作品を紙で包むのは絵具が完全に乾燥している場合のみです.古新聞などは使わず,グラシン紙や薄葉紙を使用してください.粘着テープはできるだけ使わず,必要がある場合でもテープが作品に触れないように充分に気をつけましょう. 木枠に張られている油彩画は立てかけて保管します.水平に置くと絵具層の重みで支持体が弛みます.下にある木枠の角部分に支持体が当たるとその上層の絵具が割れることがあります. 水彩画や版画などの紙に描かれた作品はマップケースなどの浅い引き出しや保存箱に水平に保管してください.数枚を重ねる場合はあいだに中性紙を挟み,それぞれが動いて擦れないように充分に注意してください.きちんと額装されている紙作品は立てかけて保管してください. |
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温度湿度,通気 | ||
寒冷地や海の近く,地下室や倉庫など,地域の気候や自宅の状況に合わせて保管場所の環境を整備しましょう. 展示と同様,温度湿度の管理が必要ですが,とくに通気に気をつけてください.風通しの悪い場所,結露する場所には作品を置かないようにしましょう. 箱を上手に活用すると,部屋の温度や湿度の変化の影響を緩やかにできます. |
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カビ,害虫 | ||
保管場所やその周辺を清潔に保ち,保存棚や箱の整理整頓を心がけましょう.保管場所の換気をおこない,定期的に作品を保管場所から出して風を通すと良いでしょう. | ||
記録整理 | ||
作品ごとの観察記録をとり,作品の状態の変化に注意しましょう.作品リストやチェックシートを作っておくと管理に役立ちます. | ||
移動のリスク | ||
人的な事故 | ||
作品に触れる前には手を清潔にして,作品を傷つけないように腕時計や指輪,ネックレスなどの装飾品を外す習慣をつけましょう. 作品は必ず両手で持ちます.絵画作品の場合,画面に指をかけないように注意して,画面を自分の側へ向けて持ってください.額装されていない紙作品などは板に載せて水平に持ちます. 作品の大きさと重量を把握して,脆い部分に負荷がかからないように慎重に持ちます.大きな作品は一人で移動しないようにしましょう. 室内での移動は,部屋や廊下の障害物を片付け,ドアを固定し,先に通路の安全を確認しましょう. |
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衝撃,振動 | ||
車などで作品を運搬するときは,緩衝材や梱包材を利用して振動を最小限に抑えることが必要です.専門業者の美術便を利用する方法もあります. | ||
環境の変化 | ||
現在作品がある場所と,移動中および移動先で温度湿度の環境が著しく異なる場合は,移動先ですぐに梱包を解かず,新しい環境に慣らすために時間を置くとよいでしょう. | ||
作品の劣化や損傷に対する処置 | ||
汚れの除去 | ||
額に付着した塵埃は軟らかい毛のブラシで払うか,乾いた布で軽く拭き取ってください. 作品,とくに画面には絶対に触れないでください.たとえ埃が付着していても一般の方が除去すると作品を傷つける危険があります.汚れが気になる場合は自分で処置せず必ず保存修復の専門家に相談しましょう. |
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作品や額の欠損 | ||
絵具層に浮き上がりなどの異変を確認しても自分で処置しないでください.剥落した絵具や額の部品などがある場合は大切に保管して,保存修復の専門家に相談してください. | ||