油彩画に見られる劣化と損傷 おもな症状 | ||
構造別劣化と損傷の種類 | ||
支持体 | ||
張りの弛み | ||
キャンヴァスに描かれた油彩画は木枠に強く張られていなければならない.キャンヴァスの張りが経年により弛むと,温度湿度の変化により伸縮が起こりやすくなり,経年とともに絵具層の固着を悪化させる原因になる. 支持体が弛んでいると,たとえば移動の際に画面が揺れやすくなり,絵具層の損傷の原因になる. |
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変形,反り | ||
温度湿度の変化による支持体の伸縮,外部から加わった衝撃などにより支持体の平滑さが失われる.キャンヴァスの場合は絵具層の劣化に伴って変形する場合もある. | ||
破れ,割れ,穴,欠損 | ||
乱暴な取り扱いにより支持体に外から力が加われば支持体は破損する. | ||
地塗り層,絵具層 | ||
剥落 | ||
絵具が剥がれ落ちている状態.下層の地塗り層または支持体が露出する. | ||
浮き上がり | ||
絵具の固着が弱まり,地塗り層から浮き上がっている状態.このまま放置すると剥落の危険がある. | ||
亀裂 | ||
絵具層にひびが入っている状態.温度湿度の変化,衝撃や振動により支持体が動き,固化した絵具層がこの動きに耐えられなくなって割れる.正面からの観察では判別が難しいが,亀裂の周辺では絵具層が浮き上がっている可能性がある. | ||
鱗片化 | ||
絵具の媒材(接着成分)が弱まり,絵具が細かく浮き上がって剥落する. | ||
擦れ傷 | ||
画面に物が当たって絵具の表面を傷つけた状態. | ||
黄化,暗色化,ツヤ引き,白亜化 | ||
経年により絵具の媒材(接着成分)が黄色く変色したり,色が黒ずんだりする場合がある.媒材が弱まれば光沢が失われ,表面が白濁して見える場合もある. | ||
ワニス層 | ||
黄化,暗色化,ツヤ引き | ||
絵具層と同様にワニス層も経年により劣化する. | ||
塗布ムラ | ||
エアーコンプレッサーが使われる以前はワニスは刷毛で塗布されていた.手塗りのため厚さにムラが生じる場合がある.不均一に塗られれば厚い部分で黄化が強く生じたり,ツヤが不均一になったり,作品の外観を損なう. | ||
すべての構造要素にみられる症状 | ||
空気中の汚れは作品に付着して堆積する.作品の外観を損なうだけでなく,埃が湿気を含めばカビ発生の原因にもなる. | ||
湿害 | ||
強い湿気を含むと地塗り層,絵具層の固着を著しく損なう場合が多い.たとえばキャンヴァスの裏面や木枠に,湿気が蒸発した際にできる汚れの輪染みがある場合は注意が必要. | ||
黴,虫害 | ||
水性の絵具でなく,油絵具でもアクリル絵具でもカビは生える.カビの菌は空気中に飛散しているので,湿気と温度,通気の悪さの条件が整えばどこでもカビは発生する.木枠や支持体の板が虫に食われる害も多くみられる. | ||